回転花見

 寝られずに出たので終日ぼけぼけ。手紙を書いていたせいで出がけはすっきりしていたけど、動物を眺め森をぬけいつものベンチでパンを食べ終わると、またすぐ眠気で景色が遠くなる。動くものや人の声、ぜんぶ遠いので、視る聴く意識しないと内容が分からない。
 目覚めようとする淡い桜色の下で、女学生が回転するのを眺める。ロスコの前で黒袴がゆれるたび、ざわめく森のほうに動力を伝える。そこだけ浮き上がる。風が吹き枯れた芝生の上を棒アイスを食べる女たちが渡っていく。神殿の木が丸く見えるのは、白い敷石が陽を反射して下から照らすからだとやっと気づく。夕方に雪山用の手袋を買う用事につきあう。
 夜に食堂で夕飯。出ると雨で、自転車を漕ぐと雨が目に入る。いつもの雨ならレンズに当たるけど、きっと粒が大きくて重いので目と眼鏡の間にたえず飛び込んでくる。いままでない感じ。雨の路地裏で写真を撮っていると、どこかから素敵な音楽がもれ聴こえてくる。昔のエレクトロかそれをネタにしたヒプホプか知らないジャンルのそういう音楽か。しばらくうろうろするが、どこから聴こえてくるのかけっきょく分からなかった。林芙美子のこねこねアンコの木賃宿あたりで雨宿りして一服すると、雨はあがり快適な帰り道。