昼過ぎに出かけると景色が黄色くて驚く。通りの果てまで景色が不思議な光の乱反射の中に均質に居並び、なにか全体的に近くに感じる。僕はまたなんとなく森の方へ向かっていて、ひょっとして森に入ったら多少は空気もきれいかな?と期待したが全然そんなことはなく、森に入ろうがどこまで行っても黄ばんだ光が景色をのっぺりさせていた。空気遠近法みたいな効果でふだん遠景が青みを帯びるのに無意識に慣れているせいで、景色が黄色っぽくなると遠近感がおかしくなったりするんだろうか?
 夕方に冷え込む。夜に手羽先と大根のカレー。夜更けにたばこを買いに出るとものすごく寒い。すこし遠回りして歩いている間だけ、ぼんやりと311のことを考えていると、通り魔事件の路地に出る。すぐそばで刺されて亡くなった一人の他人のこと、遠くで亡くなった大勢の他人のこと、生きていて今こうして夜の路地をぶらぶら歩いている自分のこと。やはり僕はそれがどういうことなのか分かっていない。あれから二年が経って世の中もだいぶ変わったような(噂を聞くような)気がするんだけど、僕は相変わらずぜんぜん分かっていないし変わっていない。昼間の陽気と黄色い光がうそのように踏切は冷たく静まりかえり、月明りを反射するレールの摩擦面がずっと遠くまで、向き合う刃物のように鋭く光り続いている。(3/10)