商店を出て左手前の路上駐車の車をよけ信号待ちの右手奥の車の方を見ながら渡ろうと自転車を踏み込むと、路上駐車の車の影から走って来た黒い車に衝突される。そのあと、突っ込んでくる車内からの映像となり、袋をさげて自転車に乗ったおっさんがふらふら現れ猛スピードで接近する。弛緩した表情がみるみるこわばっていくのが鮮明に見える。自分視点と運転手視点の映像が交互に何度も流れ、ずっとそれを見比べている。鉄の塊が一瞬で飛び込んでくる自分視点より、運転手視点の方がすごく怖い。

 へ先生がむかし南阿佐ヶ谷近辺に住んでいたという話をみる。それで僕も、学生当時住んでいた下宿から南阿佐ヶ谷の何も無い殺風景なアパートまでの1kmほどの道のりを、毎日のように通っていた頃のことを思いだした。アパートの家主は新宿の焼肉屋でアルバイトをしていて、留守のことも多かった。たまにバイト先の厨房の韓国人が作った賄い飯というのを持ち帰るので「これうめえね」とか言って食べていた。ほかに家主とどんな話をしていたのかと考えてみてもほとんど思い出せず、ただ「コチュジャン、テンメンジャン、ヤンニョムジャン」と家主が唱えていた呪文のような断片だけが散らばっている。そのバイト先のふちのかけた茶碗や丼を貰ってきてはアパートでの食事にも使っていた。いつかは自分が気に入った器や美しいと思った器を買って、食事をするものなのだろうなと漠然と思ってきたけれど、未だにふちが欠けたりヒビが入ったそれらを普通に使っている自分はなんなんだろう、ものすごくズボラなんだろうなと思う。



 白黒に赤のボーダー柄のミックスウールのセーター。白黒に青緑のボーダーの同じ毛の帽子。なぜか一人だけ教壇の端の方に立っている姿を見つけて○○さんだと思う。その同窓会?の話が終わった後あわてて教室を出て追いかける。廊下の向こうから歩いてくる表情は少し笑っているようにも見えて、あれは絶対に○○さんだと思う。
「あの、○○さんですよね?」
「ああ○○さん、似てますよね。違いますよ鈴木ですよ」
「す、鈴木さんですか。。失礼ですが、鈴木ナニさんですか?」
「鈴木トルカ(だかコンカ)です」(3/9)