おにこやす


 山深い緑をかきわけていくと突然巨大な石像のキューピー人形の頭部が現れる。小さな家くらいの大きさがあり、植物に侵蝕され朽ちかける様がまるでアンコールワットのように見える。頭が置かれているところだけ木や草が開けているので眩しい陽があたっていて、うえの方にかすかに青空がみえる。さらに木々をかきわけてすすんでいくと、別の巨大なキューピーの頭部がごろごろ出てくる。肌色に着彩したのが剥げかけたものもある。半分や1/3ほどで水平に輪切りにされたものもある。そのような頭部は中が空洞なので内側にも木や草が茂っている。近くには輪切りの別の部分が置かれている。特に巨大な頭部はそのように部分的に仕上げてから最後に組み立てていたらしい。輪切りの頭部の内部に胴体が置かれたものは、頭の中から体が生えているような妙な感じに見える。すこしづつ生い茂る木や草が消え、在りし日のキューピー工場のような景色がよみがえる。頭部ひとつひとつにプレハブ小屋がセットとなり、それらが整然と列をなしてずっと奥の方まで並んでいるモノクロの写真。ロケ映像からスタジオに戻ったらしく、誰かが関西弁のようなイントネーションで、かつてのキューピー工場の話をしている。なにやら読者の投稿依頼によってあれこれをリポートする探偵ナイトスクープのような番組らしい。
 安産を祈願するキューピーを「鬼子安」といい、頭のツノを両手で隠す手のかたちが子安貝のように見えるからだという。キューピーは手が頭に届かないので適当に横に広げた手をツノを掴むように握らせたらしい。また映像は山にもどり誰もいない広大な駐車場か物流センターのような場所。緑と雲ひとつない空の青がとても濃い。キューピー工場は探して行こうとしても誰も辿り着けず、ずっと都市伝説のような存在だったそう。布団の上からしみてくるような寒さで目覚めると部屋は闇で真夜中か明け方か分からない。さっきまでの光景が生々しい夢なのか寝る前に観た現実の番組なのか判別がつかず、反芻しながらそのままじっと目を閉じていると、隣の部屋でかすかな音や気配があって怖い。そのあと、顔をなでられるような毛が逆立つ感じ。感触は肩にかぶさるようにして背中をおりていく。(12/12)