誰かのふとん

 もうそろそろどうだろうか?と、ゆりこさんの富士日記が読みたくなって部屋中探すも出てこない。(ただ本棚に戻すのが面倒なだけで読み途中というわけでもない)枕元に積んだ裸の文庫本を見ていくと、切り崩した山の断層から耳垢と埃まみれの大量の綿棒がばさばさと勢いよく溢れ出てこぼれ落ちた。その感じがなんかに似ているけど思い出せねえなとますます朦朧としたうわの空で綿棒を拾い集めて捨てたあとも一冊一冊確認していくが見つからない。すると自分で買った記憶のない本が出てくる。まったく見覚えのない田山花袋の「ふとん」があって、ふとんのとなりに知らないふとんがあるなあ、、と数秒止まって全景を眺める。いつだか大根泥棒がゴミの日に本を拾ってきたと言っていたけど、それかも知れないが分からない。で、ふとんってどんな話だっけ、、読んだことあったっけ、思い出せねえな、、とさらにがさがさ崩していくと「冬の夜ひとりの旅人が」という本が出てくる。これも自分で買って読んだ記憶がない。なんとなく冬だしちょうどいいんじゃねえかな、これをいっちょ公園で読んでみたらまるで文化的な人みたいでいい気分かも知れないなふふふ物語と景色がどう重なるかねと下衆な思いで触りの数頁を読んでみて思い出した。いつだか読んでいて無性にイライラした記憶が急激かつ劇的に無駄に色鮮やかに蘇ったので慣れないことはすぐ止めることにした。(12月上旬)