妄導犬


 午後から町外れをうろうろする。晴れて明るいけど冷えるのでセーターとてぶくろ。ひなびた路地裏から路地裏へ転々とするうち陽は陰り、ファインダーを覗くたび側溝や枯れ草だらけの植木鉢やくすんだモルタル壁の陰からみるみる青ざめる。冬に向け、肌にあたる風が硬さをますのを感じる。
 廃材で敷地を周囲に誇示する、ゴミ屋敷的な風格ただよう屋敷を眺めながら煙草と缶コーヒー。かつてここからそう遠くない地区の崖下にあったという、墓場の卒塔婆を勝手に引っこ抜いてきて建てた引揚者のバラックの集落のことを思うとき、自分はとても自由で、想像力の限界が打ち壊されたかのようなわけの分からない自信や実感が胸に満ちるのを感じる。日本のどこかに未だそういった風景が残っているだろうか。

 ここ数日のあいだ、書いて吐き出したり、大根氏と話をしたりするうち、頭をぐるぐるしていた佐藤さんの件はだいぶ落ち着いて、心は穏やかになった。夜にあげものを食べる。サルーキという犬やら古代の犬の話など。共通の話題に欠け、数少ない通じる話を(詳しくないので、場当たりの想像力で)掘り下げるので、だいたいいつも似たような変な感じになるのだと思う。(11/24)