自分の喉仏の感触しか知らない

 出来立ての熱いソバをすすったらワカメが勢いよく飛び込み、喉の奥に張り付いてやけどした。寝て起きたらまだ喉が痛い。そのまま具合が悪くて寝込む。風邪でもひいたような感じで身体中倦怠感がひどい。夜。食堂で親子丼を食べる。ひさしぶりに緑道で缶コーヒー。夜はだいぶ冷え込む。ぼーっとする額に冷たい風があたって、いくぶんすっきりするような気がした。喉をさすってみると喉仏に鋭角な感触がある。扁桃腺が腫れた時の感じなので、やはり風邪なんだろうかと、柳の葉が風に揺れるのをしばらく眺めていた。

 緑道のいつもの場所に座ると、だいたいいつも目の前の柳の木を眺めている。そういえば、なぜだか分からないけれど、柳の木はけっこう好きかもなーと考える。木の名前やら種類やらぜんぜん知らないけど、柳はなんとなくいい感じだと思う。「ぱっと見が変わっているから」とかいう子供みたいな理由な気もする。思えば街で見かける草木に対する私の知識なんて子供時代からまったく進歩ないしなあと。たまにそこいらへんの草木の名前にやたら詳しい人がいたりして、いちいちすらすら名前を挙げたりするけども、ああいうのはいかにも違いの分かる大人という感じがしてかっちょいいなーと思う。
 宵闇の中で街灯に照らされ、しきりに垂れた枝をうねらせる柳はけっこう迫力がある。他の木は揺れるときザワザワ音をたてるけど、柳はあんまり音がしない。だけれども結構激しく身を揺する(「大雪の日は視覚的にはダイナミックだけど聴覚的にはスタティックな、その対比が良かろう」などと仰っていた人様の言葉を思い出す)。木のくせによく動いてたり派手だから見ていて飽きないんだろうか。たぶんそれで正常というか健康なんだろうけれど葉っぱがしなだれて元気がなさそうで、なんとなく陰気なところも、見ていて落ち着く。
 時代劇やなんかの昔の町並みだとよく川沿いに柳が街路樹っぽく植わってたりしたような気がするけど、私は柳の街路樹がある街に住んだり通ったりした記憶がない。むかし、どこか温泉地みたいなところでそういう景色を見た気もするけど、よく思い出せない。やはり陰気っぽいから、今どきの街路樹としては流行らないんだろうか。。などとぼーっとする頭で考え、とくにこれといって思いつかずああ具合悪ぃとタバコ一本で帰宅した。

 しばらく日記を書かなかったし、ずっとここにも来なかったなあと思って来てみたら、最後の日記は5月だそうで、半年も経っていなかった。なんとなく一年くらい放置していたような感覚だったけれど、そうでもなかった。時間の感覚がだいぶおかしくなっているし、たかだか半年前の自分の作文なのに、もう今読むとなにがなんだか意味が分からないし、なんなんだこいつはと思う。
 書き残しておきたいなあと思ってなにか書いてみても、「これ、ここに載せて一体どうしたいんだろう。。」という「今ごろかよ」というような反省の気分のほうがそのつど勝ってしまって「まあそのうちに、、」などとやってるうち、すっかり遠ざかってしまっていた。その間、なんも考えずただ呆然と過ごしていたので、ますますクルクルパーが進行した。