エンゼルちゃん




 はたび。
 鼻毛が出ていても問題なさそうな方向にふらふら行くと、結局いつもと同じ散歩コースだった。町外れで食事。風が冷たく、漂白されたように白くうすぼけた景色。「エンゼルちゃんエンゼルちゃん」と呼ぶ声のほうを向くと路地裏から猫が出てきた。猫の名前らしい。エンゼルちゃんなんて立派なような縁起でもないような、いっぷう変わってるなと思いつつしばらく眺める。帰宅してから家元の訃報に接した。
 落語の「ら」の字も分からないアタスみたいなもんが「ご冥福をお祈りします」だなんて、さも何かが分かる人ぶってるみたいで空々しいと、つぶやいたあとに迂闊に思ったが、談志さんが出ていた番組を毎週楽しみに見ていた時期があって、それがきっかけでなんだか好きになった。しつこいようだが落語のことは分からないけれど、あの声やあのものの言い方がもう聴けないと思うと、さみしい。
 天国でもビンラディンのTシャツを着て笑っていてほしい。