おしるこ


 どこかでおしるこの話をしている人がいて、それを聴いていたら無性におしるこが食べたくなった。それから「おしるこはブルースとファンタジー」などと寝言みたいなことを考えていた。あんことモチ。泥と雲。泥は地方や習慣によって、沼だったり池だったりすると思うのだけれど。元祖ブルース&ファンタジーといえば、やんごとなき方のことである。じゃあ、やんごとなき方とおしるこが似てるのか?と考えると、よく分からないんだけど、なんとなくおしるこ的なところもあるような気もする。。なんとなく、あんこのようなぬかるみの水たまりに映る雲のような人みたいな印象もある。
 「あんこのようなぬかるみ」で、林芙美子の放浪記の一節を思い出した。

 「新宿の旭町の木賃宿へ泊った。石崖の下の雪どけで、道が餡こ(あんこ)のようにこねこねしている通りの旅人宿に、一泊三十銭で私は泥のような体を横たえることが出来た。三畳の部屋に豆ランプのついた、まるで明治時代にだってありはしないような部屋の中に、明日の日の約束されていない私は、私を捨てた島の男へ、たよりにもならない長い手紙を書いてみた。」*1
 雨上がりの道が濃い霧に包まれた夜更け、この話の舞台となった木賃宿の界隈をたまたま通りかかり、写真を撮った。未だ二階部分の違法改築に往時の名残をとどめている。いつか、雪どけで道があんこのようにこねこねした日にでも、やんごとなき方のことでも思い浮かべながら、またここで写真を撮りたいなと、ふと思った。