ゆめのりんご


 昼間。明るい電車の中で、椎名林檎がカツラか育毛剤のCMの撮影をしている。アデランスとかなんちゃらとかという言葉が聴こえてくる。ギャラリーの人垣をかき分けて覗き込む。椎名林檎を生で見てみたいという気持ち以上に、「電車で椎名林檎を見たよ」と誰かに話して自慢したいという気持ちを強く持つ。椎名林檎がアデランスのイメージキャラクターとして出演しているのか、演出家として役者に演技指導しているのか、状況がよく見えない。「そういうシチェーションの新曲のPV撮影なんだよ」と知ったように言う観客もいる。それぞれが好き勝手なことを喋っている。 
 引きの電車内の映像から、吊り棚にぞんざいに放置されたスプレーのようなものに一瞬でズームインすると、「すご技クリーナー」と書いてある。彩度が低く粒子の荒い、コマ数の少ない、なにか乾いて冷たい質感の映像。何パターンかでズームインするたび、カビキラー、パイプユニッシュなど、置いてあるスプレーが変わっている。「これはあくまでもテストで、本番は新商品の育毛剤になります」と椎名林檎が周囲に説明する。
 次の駅に近づいてくる。「人が乗ってくるから、早くこれを隠さないと!」と、椎名林檎が慌てた様子で白いおにぎりを女子高生のパンツの中に隠す。それは口実で、実はそうすると終着駅に着く頃には丁度よい塩気のおにぎりになるのだという。また駅が近づき次々と様々な食品を女子高生のパンツの中に隠している。相変わらず外は明るくて長閑な雰囲気。窓から入る斜めの光線が白い日だまりを作り、車両の奥の方で盛んに動いて支持を出す椎名林檎が陽炎にゆれ、白昼夢のような光景。生で見るとやはり椎名林檎って面白い人なんだなと、妙に素直で素朴な気持ちで思う。
 椎名林檎が呼びかけると、公衆トイレのように仕切られた小さな個室から次々とウサギが出てくる。しろちゃん!と呼ぶと白いうさぎ。くろちゃん!と呼ぶと黒いうさぎ。ちゃいろちゃん!と呼ぶと茶色のうさぎ。いんたーねっとちゃん!と呼ぶと灰色っぽいくすんだ色のうさぎが出てくる。椎名林檎は満足そうに笑顔である。
 いったいこれらのシーンがどういうふうに育毛剤のCMとなるのか、あるいは育毛剤のCM風のPVになるのか、とても気になって観衆のざわめきに耳を澄ます。さすが椎名林檎だな、とか、ああいうのは撮影技術的に難しい云々だとか、そういうのばかりで肝心の話が聞けず、もやもやする。そして眼がさめた。なんだかすごく生々しい上に、妙に面白い夢だった。

 椎名林檎の顔は好きだけど、テレビや街で耳にする昔のヒット曲は変な人のふりをしてるような印象が強くて、あんまり馴染めなかった。育毛剤のCM的な撮影がもし新曲のPV用ならば、今の椎名林檎はいったいどんなふうになってるんだろう?と、夢の中ではすごく気になっていたので、結局それが分からず終いで眼覚めてしまい、寝起きから無性に残念な気持ちだった。

 よる。やんご先生の放送を聴く。最初は頭痛がひどくてぐったりしながら聞いていたんだけど、頭を抱えつつ死にそうな顔をしてあれこれ書き込むうち(なんだか珍しくそういう気分だった)、いつのまにか頭痛が治ってすっきりしていた。これがやんごとなきパワーなのだろうか。なにかにつけて、お母さんがちょくちょく出演してくるのがおかしかった。放送終了後に「下の電器がついてるけど、うんたらかんたら」とかいって入ってくるのも爆笑した。。ナ先生ばりの偶然のラジオ空間だった。
 それから、べろんべろんに酔っぱらいながら福島弁で発音する「エディマーフィ」が無性におかしかった。うまく表現できないけど「士農工商」「以心伝心」みたいなイントネーション。それから誰かの「エディ・マーフィーは黒人の俳優だよ」という書き込みが、なぜだか分からないけれどものすごくツボだった。あの雰囲気だったから無性におかしかったのだと思うんだけど、ただの親切心からなのか、なにかを狙った書き込みなのか、善意なのか悪意なのか、どっちともつかないような底知れない雰囲気を感じた。
 放送中にかけていた小倉優子の「永遠ラブリン」という曲。「曲はいまいちでPVがかわいい」と話されていたけど、気になってちゃんと聴いてみたら、予想外にいい曲だと思った。小倉優子は好きじゃないから変に期待しないで聴いたのが良かったのだろうか。特に、前奏後の歌い出しからAメロあたりの雰囲気がものすごく好き。やる気のないヘタな歌と絶妙にマッチしたメロディだなあと感心してしまった。なんかのオールディーズみたいな、ちょっと懐かしい感じのするメロですね。サビまで来るとぼんやりした印象になっちゃうけど。




 永遠ラブリンを聴いていて、ふと、スパンクハッピーの「拝啓ミス・インターナショナル」という曲のことを思い出した。当時、とても好きでよく聴いていた。そういえば、ねとらじDJで選曲企画をしていた頃も○○ホン戦死さんだか、○○ーナーさんに選曲したと思う。ググったらアップされていたので貼ります。
 それから菊地成孔さんの日記で、この曲が生まれる経緯と、氏にとっても特別な曲だったということを初めて知って、ちょっと感動した。*1
 その日記で「有り難い事に、現在ワタクシには15歳から55歳までの少女ファンの皆様がおります。しかし『拝啓ミスインターナショナル』という曲を作らなかったとしたら、その数は100分の1だったかも知れない。」と大袈裟に書かれているけど、実はワタスが氏のことを好きになったのも、たまたまこの曲を聴いたからだったので、びっくりした。ワタスは少女じゃなくてオッサンだけども。
 氏の他の活動、ティポなんちゃらとか、ロイヤルデートコースなんちゃらペンタゴンとか、東京ザヴィヌルなんちゃらとか、たまに耳にしても、なんつうかシゴキ系だなーとか、高級感はんぱねえな、とかいう漠然とした(&たいへん失礼な)印象しかなかったんだけれども、当時聴いた『拝啓ミスインターナショナル』には、なんつうか瞬殺された。
 パフューム前夜のそれっぽいJポップ*2というアレはさておき、曲自体になんかただならぬ風格というか、得体の知れないアウラのようなものが漂っている気がした。やはりこの歌詞のせいなのだろうか。当時、たまに深夜ラジオで耳にしていた菊地さんの話がクソ面白かったのもあって「ああ、ああいう人が詞を書くと、こういうただならぬ雰囲気になんのかなー」なんてぼんやり思っていたんだけど、今頃になって氏の日記であの歌詞が出来た経緯を読んで、べ、ベネズエラの貧民窟の少女の手紙だったのかよ、、なんかすげえな。。と、この曲に感じていたよく分からない風格の由来、その一端に触れれたような気がした。。気のせいかも知れないけれども。。

 つうか、なんも知らなかったとはいえ、選曲した女性DJに無意識に重ねていたのが、まさかベネズエラの貧民窟の少女だったとは。。我ながら苦笑というか、なんかいろいろとスンマセンでした!という気持ちです。。
 それではまた。

*1:菊地成孔日記 Oct-18-2006 / http://bit.ly/bVfiTg

*2:氏の日記に出てくる2006年のは未聴。アタスが知ってるのはアップされてるのと同じやつで、2004年発売のとあるコンピレーションCDに収録されていた