ふとん漂流記


 未明。民生食堂まで食事に。道ゆく人も、アタスも、皆おしなべて脱北者みたいな風貌で、脱北者みたいな面持ちで。
 いつになく清浄な大気を存分に全身に取り込んだせいか、民生食堂のうすぼけた席につく頃には食欲があるような、ないような。アタスみたいなタイプの人が「食欲がない」だとか、なんだか書くのも気恥ずかしいのですが。。力なく味噌汁など啜ってみる。ケータイを眺めていると、折よくイヤダさんの更新があったので、帰りに誰もいない朝の公園で缶コーヒーをやりながら読んだらさぞ気分いいだろうな、、などと考えるも、そんな時に限って妙なるタイミングで充電が切れるなど。。まあしょうがねえ、と、それでも缶コーヒーを買って公園へ。暗渠の緑道で、路上生活のおっさんがノートパソコンで何かしている。電源は回線は? 昼だろうが夜だろうが、明けきらない早朝だろうが、世の中アタスには分からない事だらけ。
 公園の隅。ぐにゃっと曲がったままの姿勢で、淡いブルーからみるみる白んでゆく空を見上げる。ビルごしの大通りから走り去る車の音が、分厚い雲に反響し、空からふってくる。また知らないおっさんがやってきて、ため息とたばこの煙をはき、去ってゆく。

 さかのぼり、夜半。目覚めると某タさんの放送がちょうど終わったところだった。スレを眺めると「聖水」などとあり、また日記のネタをアレしてしまったような惜しい気分に。アレを立ち上げたついでに、寝ぼけたまま、知らない人の声など聴いてみる。そうしていると、ここはどこなのか、私は誰なのか、ほとんど覚束ない気分。布団はまるで漂流するイカダみたい。目覚めると、いつも見知らぬ(見飽きた)ところに流されている。
 この前。某タさんが配信中「初めて買ったのはゴーバンズだった」とおっしゃっていた。ひょっとして同じ話を大昔にも聴いたことがあるかも知れない。(あれ、それともオガーさんだったかな。。) なにか、初めて買ったのがゴーバンズ、というのは、なんだか妙に「人に話すには、ちょうどいいもの」という感じがして、羨ましいような気分になった。ほどよく普通で、ほどよく普通じゃない、というか。。バンドブーム華やかかりし頃、みたいな時代性もちゃんとあるし、、なんというか、過不足がないというか。。そんなふうに思われても、ご本人としては、アレな話なのかも知れませんが。。アタスはゴーバンズに関する思い出というのが、ほとんどない。しいて挙げれば、あのドラムの大女には、子供心に妙な色気のようなものを感じていたかも知れない。。
 アタスは初めて買ったCDというのが、最初からどうも曖昧というか。。その後も、思い出すたびにどんどん記憶がぼやけていってしまっている。ドラクエのサントラか、デペッシュモードのシーユーが入ってるやつ、これらが自分で買ったのか友達に借りたものなのか、どうも判然としないのだ。。(わざわざCDを買うならファミコンのソフトでも買ってそうな子供だったから) そういうのを母親が町内会のなんかで貰ってきたCDウォークマンディスクマンと書いてあった)で聴いていた思い出がある。その少しあとに、親にコンポを買ってもらった時に、自分でユーミンとサザンを買った記憶はしっかりとある。コンポの試聴で店員がかけていたのを聴いて気に入った(気がした)のだ。ただユーミンとサザンである。内容は素敵かもしれないが、人にする話としては最低な感じである。普通である。くそおもしろくない。少なくとも自分がそんな話をされてもちっとも面白くない。はじレコ(初めてのレコード)は、もっと気恥ずかしいような、情けないようなやつでなきゃ、という、漠然としたアレがある。 ちなみに、アタスが初めて買ったアイドルのCDは高岡早紀の「楽園の雫」なんだけど、むしろこれがはじレコだったら良かったのに、と思う。。

 親がよく音楽を聴いていたのは車の中で、家族旅行に向かう心躍る気分で聴いた加山雄三などはとても心に残っている。そして旅行から帰る海沿いの道の長い渋滞、重苦しい雨空と律動するワイパーの影。御殿場インターあたりのもの淋しい風景と、小椋佳のやるせないような唄がいっしょに心に刻まれている。




あなたの言葉より今は やすい流行歌のほうがまし 
かなしいことは どんな化粧したって かなしいのです

 子供心にも何かうったえてくるものがあったんだが、、あれはいったいなんだったのか。意味が分からない。おっさんになってから親しむようになったAORからシティポップスはさておき、気づけば泡沫系ニューミュージックのあれこれにも、なんとも言えないような複雑な気分で妙な親しみを感じてしまうのは、物心つく前の小椋佳の刷り込みの影響が大きいような気がする。。
 あれこれと80年代の小椋さんの動画を視聴してみると、なんというかAORふうプロダクションの演歌みたいな趣きのが多いですね。演歌つうか歌詞が説教臭いだけか。。なんとなくアタスがイメージしてたような幻のAOR演歌とは全然違うけども、、数十年かけて回り道して、あの雨の御殿場インターの頃に戻ったみたいで、ちょっと愕然とした。