はめ殺しの窓


 空腹のまま寝て、空腹のまま起きる。電車の音がうるさいので窓はしめきり。むし暑い。「はめ殺しの窓」ってこういうこと言うのか。「はめ殺しの窓」というふしぎな口癖の、むかしの知り合いをふと思い出した。その人は、はめ殺しの窓を見かけると「おや、はめ殺しの窓だね」とすぐ言うのだ。なんとなく気持ちは分る。「はめ殺しの窓」ってなんとなく言ってみたくなる。その人は実家が花火屋だと言っていた。実家が花火屋ってどういう感じなのだろうか。ちょっと想像がつかない。その人はしょっちゅうウソばかり言う人だったから、どうせ花火屋もウソだと思ってたんだけど、数年後、花火屋天主なんちゃらかんちゃらとかいってテレビ出演しているのを偶然目にして「へえ」と思ったりした。
 夜、そとまわり。100均に寄ると、店員はいつもの豆鉄砲おじさんと竹を割ったような日本語を話す韓国女だった。一月ほど前の「白髪かと思ったらフケだった事件」以来、この二人の軽妙な掛け合いを期待して、店に寄るたび、ちょっと耳をひそめてしまう。それを再現しようと、対話の様子を一度仔細に書き出してみたんだけど、なんだかうまくおかしさが伝わらないのでやめた。白髪かと思ったら韓国女の頭がフケだらけで、豆鉄砲おじさんが「うわあ!汚ねえ」とはしゃいでいた、というような、おおむねそんな出来事です。
 数年前、同じ店に歯抜け声がすてきな女店員がいて、いつも「いい声だな」って耳を澄ませた思い出がある。サシスセソが弱いんですね、そういうのと幸薄系の見た目とが相まって、すごくいい感じの方だった。ワタスはひそかに「歯っかけさん」とか「薄荷系さん」というあだ名で呼んでいた、今頃どうしてるかな。歯っかけさんは近所に住んでたらしく、プライベートでも数回目撃したことがあるが、なぜかいつも長い棒のようなものを袋に包んで肩にしょっていた謎の歯っかけさん。元気かな。。なんか今日は思い出してばっかりだなあ。
 店員が客にあだ名を付けるっていう話をよく聞くけど(つい最近も人様の日記で読んだ)、自分はそういうバイトをしたことがないのでよく分らない。アタスなんかはさしずめ「中年サイダー」とでも呼ばれてるんだろうか。それとも「フレンチサラダじじい」だろうか「むきぐり野郎」だろうか、それとも「飲むヨーグルト・ブルーベリー味の亡霊」だろうか。 
 アルゼンチンの試合を観ながら、辛子明太子とチンゲンサイの焼うどんを食べた。



グリーンさん