ひとの金で壽司をくふ

 オストデカイ

午后。へんな時間。
曇天。白く濕氣た里は人だらけ。
なんやかんやあつて、壽司をおごつてもらう。
ずいぶん久方ぶりに、風情あるやうなものを口に入れる。
しまあじ、なまえび、かんぱち。あなご。口中で、甘くほどけるえんがわの脂。
エサぢぁないつて、すばらしい。人間らしいものを攝取して、人間らしひ心地を思ひ出す。
へたをすれば、文明圈に生きてることだつて、平氣で忘れるコンクリヰト蠻族。
ひんずればどんずる。
カフエに移動して、少時神妙な顔突き合わす。核心にはふれずに四方山な話あれこれ。
(相手の)不健康の話など聽く。よつぽど俺のはうが不健康な暮しぶりなのに、わりと元氣。
ひんずればどんずる。
ゐまは、やさしくされるとせつなくなる。驛まで見おくる。
人込みに、ゆれる背中が、消えてゆく。
なぜか、それを見つめる自分もいつしよに、眞夏の大氣に蒸發していくやうな氣分だつた。
他人の背中が、自分の背中のやうな、錯覺がある。
他人も自分も、だれもかれも、人込みに消えてゆく背中。
見つめる人があるかぎり、人込みに消えてゆく背中。

きらしていた、コヲヒヰミルク、食鹽など買いこむ。
よふけ。
いたゞきものの、万世のカツサンド。よけいうまゐと思ふのは、
腹がへつてゐるときに、腹に入れるものがある感覺が、なつかしひから。



イヤダさんの「おしやれ」画像にグつときた。

―― ぼくはなにしろ無敵だから、要するに友達が居なゐから。 (イヤダ日記)

天才だなあ。
こゝろに、しみこむやうな言葉。
しずけさや、ブタにしみゐる、イヤダ日記。
人間らしい言葉にふれて、人間らしい心地を思ひ出す。
さもありなん、と思はれる。
なぜ、このやうな心の滋養となる言葉にふれながら、それでもなお、俺の腹はへるのか。
ひつきやう、ゐきものはくそ不便である。






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