ねこのねどこ

 よふけ。停電する食堂がダメで牛丼屋まで引き返して食事。緑道で缶コーヒー初め。なおいっそう寒い。実家の庭でみかけた野良猫の寝床のことがなぜか思い出され、ずっとそのことを考えていた。たばこやら飴やら煎り豆やら炭酸水やら買って帰る。炒り豆は見ていたら急に食べたくなった。部屋でそれをぼりぼりやりながら「鳩が好きな人は豆も好きなのだろうか」などというようなどうしょうもないことばかりが頭をよぎった。

 実家の庭のすみに野良猫の寝床ができていた。枯れた植え込みの奥にちょうど猫の身体の大きさに土が凹んでいて、そこに枯葉が敷いてある。敷いてあるというか、枯葉の山が猫のかたちに凹んでいるというか、とにかく丁度すっぽりと猫がおさまるように窪んでいた。なぜだかそれが面白いというか可愛らしいというか、好ましいものに見えた。猫が地面を掘って作ったものなのか、猫の体重で自然と窪んだものなのか。たまに明るい茶色をしたとら猫が身を低くしてそこにじっとしていた。
 午後のある時間帯には隣家とまた別の隣家の隙間から陽が差し込み、寝床を暖かそうに照らし枯葉の色を鮮やかに浮かび上がらせる。今の時期、屋外はだいぶ寒いけれど、すっぽりとその窪みに入り込むとだいぶ暖かいものなのか、それともかろうじて風をしのげる程度なのだろうか。なぜだかよく分からないけれど、ついついあれやこれやと考えてしまい、その小さな窪みに魅きつけられ眺めながら煙草を吸うことが多かった。

 緑道で缶コーヒーを飲みながら考えていたのは、具体的には「あの猫の寝床のことを書こう。じゃあ、どうやって書こう」ということなんだけれど、実際に書いてみると、なんだかどうもしっくり来ない。缶コーヒーを飲みながら思い返していた猫の寝床の感じがいまひとつ出ないなあ、、と感じる。あの猫の寝床はもっと面白い感じなんだけど、とくに工夫なく書いてみても、当たり前だけれどもぜんぜん面白い感じがしない。