ダブと鳩


 アタスは実際に会ったことはないのですが、小川さんという、知り合いのような知り合いじゃないような、素敵なような微妙なような関係のお方がおりやす。
 その小川さんのご友人に、はじめちゃんさんという方がおりまして、アタスはほとんどどういう方かは存じ上げないのですが、ある時、そのはじめちゃんさんが(ダブミュージックについて)「ダブのことを格好を付けて『ダヴ』などと表記するオッペケペエをたまにみるが、それだと『鳩』になるから気をつけよう」と呟かれていて、それがどういうわけだか、ずっとアタスの心に残っておりやす。なんとなく「ダブと鳩」という取り合わせが、ことさら赴き深いように感じられたのでございやす。
 おかげさまで今では、ダブという音楽を考えるとほぼもれなくハトのことが思い浮かび、街角でハトを見ると(五回に一回くらいは)ダブミュージックのことが頭をよぎるというような、本格的なオッペケペエ野郎なのでございやす。

 ついこの前も、公園の水たまりで水を飲むハトを眺めながら、ダブのことを考え(させられ)ていた。ハトがオッペケペエにダブのことを考えさせるのである。
 アタスは、ダブ風味ななんちゃら(たとえば、たまたまダビーな歌謡曲とか、フォークとか)はまだしも、本格的なダブミュージックというか、アーテストご本人様が「これはダブです」というつもりで演っているような軽音楽をほぼ聴かない。それはなぜなのだろうと、アタスとダブ(っぽいもの)の出逢い(っぽいもの)について遡って考えていた。

 多分最初にアタスがダブという言葉をみたのは、坂本龍一の「B2ユニット」というアルバムのライナーじゃなかっただろうか。
 中学生の頃、いとこのオバサンが聴いていた坂本龍一のなんとかというポップな曲(未だに不明なんだけど、たしか『セルフポートレイト』みたいな雰囲気の曲だった)を聴きたくて、街のCD屋の坂本コーナーの前になんも分からないまま立った。そして一番かっこ良さそうなジャケのを選んで買ったのだと思う。ロシア構成主義みたいな意匠。なんせ中二病だから、ドイツとかロシアっぽいのがグッとくるのだ。そうかと思えばほぼ同じ頃、高岡早紀の特大ポスター付きのアルバムなんかも買っていたはず。
 話が脱線するから高岡早紀は置いといて、そのB2ユニットなんだけど、聴いてみたら意味が分からなくて卒倒しそうになったんだけど、金がもったいないのでくり返し聴いた。それでも決してお気に入りにはならなかった。今でもなんちゃらかんちゃらって曲以外は、あんま好きではない。そんで、その(復刻?再発?)CDのライナーを読むと、ダブミュージックだのエイドリアン・シャーウッドだったかデニス・ボーヴェルがなんちゃらかんちゃらとなどと書いてあった気がする。

 そのころアタスはパソコンのベーシックという言語で音が鳴らせるというのを知って、謎の雑音を工作しては兄弟や同級生に聴かせたりと、若さにまかせて手広く周囲の顰蹙をかったりしていた。
 それまで、雑音でしかないと思っていた自分の工作が、先の「B2ユニット」の音に触れて考えが変わった。「なんかこれ、似てんじゃねえか」と。勘違いした中学生のアタスは「おれが作ってんのはダブミュージックだから。音響工作だから」などと、意味不明な言動をくり返し、病状をさらに悪化させた。周りにしたら、たまったもんじゃねえ。
 そして田舎のCD屋に突撃し、先のライナーにあった名前のやら、「なんつうか、もっとこう品が良くてグッとくるようなのねえかな、、」と、あれこれ物色してみたけどけっきょく売ってなくて、どちらかというとB〜C級のマイアミベースみたいな、下世話で脳味噌が溶けるようなイカガワしい曲が満載された輸入盤コンピなどをさんざん買わされたりしていた。そしてそこで感受、蓄積された下品で脳死的なテイストが、またパソコンでの工作に還元されていくのだった。

 そういえばちょうどそのころ、ウチの母親が信仰宗教みたいなのにハマっていて、たまにアタスもそこの朝の集会についていった。密閉された車中でゴミみたいなマイアミベースを聴くとなかなか良かったのと、早朝のコンビニで「ほくほくポテト」というじゃがバターみたいなのを買ってもらえたからだ。今振り返ると、やっぱり多少タガが外れたようなところがあった。ちなみに母親はその後、車の運転で生死を分つような大事故を起こし生還したが、それを期に宗教はぱったりやめてしまった。

 アタスにとって「ダブ」という言葉には、常にこういった中二病の苦々しい思い出がつきまとう。だから未だに、「ダブが好きで聴いてます」という人と対面すると、どう話したらいいのかどこを見て話したらいいのか分からなくなって、そわそわしてしまうのである。
 アタスはべつに、ダブやダブが好きな人たちがアレなのではなく、「自分のダブのお思い出」がアレなのである。あしからず。



 ダブじゃなく、ハト的なものを貼ります。




 久しぶりに聴いた。というか、自分のために買ったレコードを自分のために再生するようなことをもうずっとしていないから、なんだかいろいろおぼつかない。どうやって(どんな気分で、体勢で)聴いていたのか少し忘れてしまった。豪州のポップスグループ。なんだか可憐で単純で、かわいらしい曲ですね。






 好きだった国産ポップスから、どこかダブ風味なものなどを思い出しつつ再生してみた。バズのこのアルバムはサディスティックスの人たちが曲と演奏担当だっけ。なんでこの曲にこういうリズム隊なんでしょうか。。やっぱりブレバタは普通ーな感じで(軽々と、飄々と)異様なことをしてるよなあ。。

 「B2ユニット」で唯一好きだったなんちゃらという曲は「‪Thatness and Thereness‬」だった。聴き返しながら、そういえば何年か前のこの時期も、教授の「パースペクティヴ」が急に思い出されて、無性に聴いたのを思い出した。なぜだか、どっちもすごく秋に似合う気がする。ちょうど今時分。
 そういえば「‪Thatness and Thereness‬」をディップインザなんちゃらがカヴァーしてるのがあって、これがなんだかすげえ。オリジナルの、あのびょんびょんしたシンセとか、教授のチェットベイカーばりの歯抜け声こそ至高、と思っていたけど、、これも(原曲との落差のせいもあいまって)とても印象的。アイディアといい、出来といい。。